2007年08月30日

「コミック怪」vol.1

 妖怪専門誌「怪」の姉妹誌となるコミック。
 志水アキによる「魍魎の匣」コミカライズをはじめとして、この創刊号には伊藤勢、堤抄子、室井大資、湯浅みき、大橋薫、後藤羽矢子、樹生ナトの作品が掲載。そして水木しげるの怪作「鬼太郎対悪魔くん」も収録。

 やはり目玉は「魍魎の匣」。
 志水アキがこのコミカライズを担当すると聞いたときに、あぁ、それなら適役だ、と思いましたが、実際に見てみてもそのシャープで緻密な線は京極夏彦の作品世界を漫画として描くのに不足なしといった感じ。
 純粋且つ歪んだ危うい関係にある加菜子と頼子、久保俊公の鼻持ちならなさ、木場修の懊悩、弱気な関口、等々キャラクター達のイメージを損ねることなく、京極作品を「漫画」として成立させております。
 「魍魎の匣」の登場人物達が抱えている「不安定さ」も実に上手く表現されているなあ。
 
 この創刊号で描かれているのは、あまりにも冒頭の「匣の中の娘」のシーンから、関口、鳥口、敦子らが美馬坂研究所にたどり着くまで。
 物語的にはまだ京極堂は登場しておらず、コミカライズ作品としての真価は彼の登場後、京極節を如何に表現するかというところで問われるのではないかと思いますが、この第一回目を見るに、今後の展開も相当期待しております。

 その他、九尾の狐をネタにバカバカしいギャグとして仕上げた伊藤勢「九尾−闇守人−」 、おとぎ話や説話伝説の登場人物達の鮮やかなコラボレーションが魅力的な堤抄子「平安Haze」辺りが印象に残りました。

 次号は11月刊行予定。
 「魍魎の匣」を読むためだけにも買っても良いかなあ、と個人的には思っております。

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タグ:志水アキ
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2007年08月29日

久正人『ジャバウォッキー』3巻

 生まれたばかりの毛沢東に対して企てられた暗殺計画、トロイ発掘のシュリーマンが発見した聖書盗作の証拠となる遺物。歴史の影に生き続ける恐竜人間達の物語に、女スパイ リリー・アプリコットとオヴィラプトルの恐竜人間 サバタ・ヴァンクリフのコンビが挑む第3巻。

 陰影の強い対比で描かれた独特の画面、洒落っ気のある映画的台詞回し、そしてハッタリの効いた物語。
 うーん、やはりカッコイイですなあ。
 未来に多くの死をもたらすことが預言された赤ん坊に対して下された暗殺指令。
 聖書の正当性と起源を揺るがす発掘された物語。
 それらと在るはずのない恐竜人間達が絡み合った素晴らしく魅力的な嘘であります。

 漢民族の王朝を影で支えて来た立場にありながら、清朝の支配下で暗殺者に落ちぶれたミクロラプトルの女王。彼女が取った手段とその報いの結末。「造反有理」のスローガンがなかなか効果的に物語を締めます。

 出来レースのトロイ遺跡発見の影に隠された「アダムの肋骨」を巡って、人間に戦争を仕掛けようとする恐竜人間達とそれを阻止しようとする「イフの城」サバタ&リリーのコンビ。
 因縁のアロサウルス・ジャンゴとの対決、そして動き出した恐竜人間達を止められるのか?!

 うーん、実にエンターテイメントしていて素晴らしい。
 未読の方は是非。

 1・2巻感想


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2007年08月28日

アントンシク『ガゴゼ』3巻

 力を失い、かつて従えていた妖怪達に狙われるガゴゼ。
 逃避の道行きの中、再会した忠臣 妖狼の朝倉は力を取り戻すために人の肉を食らえと行方不明になっていた足利義満の息子・義嗣を差し出す。
 ガゴゼが義嗣を喰らおうとした時、襲いかかる式神・青龍。
 その主である陰陽師の有盛まで登場し、朝倉は己の息子にガゴゼを託してその場に残る。
 一方、ガゴゼは再び人里に辿り着く。
 人々はガゴゼにも優しく、再びガゴゼは安息を得たかと思われたが―――


 ガゴゼの肉をもぎ取り喰らう真の姿を現わした青龍、その青龍に咆哮と共に挑む妖狼朝倉。獰猛さ全開で描かれる人外の者達の戦いが素晴らしく格好良い。
 敵意に剥かれた目玉、ぎらつく牙、おどろおどろしい風貌、実に魅せます。
 この3巻の後半に登場する人面蜘蛛・祢々もグロテスクで素敵。
 この作品の妖怪達の描写はどれもこれも実に素晴らしい。

 物語的にも、有盛に仕える十二神将がかつて交わした契約の一端が青龍の口から語られたり、朱雀と青龍の間に確執があるらしかったり、若き日の義満とガゴゼの因縁が語られたり、有盛と「カシリサマ」の謎が深まったりと、複線が縦横に張り巡らされております。これらがどう収束していくか、興味は尽きません。

 また、童形になっても獰猛さを失っていないガゴゼですが、義嗣を喰らおうとした際に、人の心の温かさを教えてくれた少女・鬼無砂の面影がよぎって躊躇したり、逆に同種の暖かさを感じて信用した人間に裏切られたりと、徐々に人間に対する認識が変わっていくガゴゼの複雑で微妙な心境が丹念に描かれていて読ませます。
 一回の温情で信頼一辺倒に転がっていかないで、まだまだ懐疑的で憎しみ蔑みの思いが大勢というのがいい。

 新刊が出るたびに素晴らしく面白いなあ、と思うのです。
 もう少し人に知られて、もう少し人に読まれていてもおかしくないクオリティだと思うんですがのう。

 1巻感想/2巻感想

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2007年08月26日

もりやまつる『GOLD DASH』1巻

 深夜の高速を裸足&ドレス姿で激走するキャバ嬢。
 それを見て逸材だ! と惚れ込むトラック野郎。
 浪華の街からスタートするそんな二人のマラソンストーリー。
 目指すは北京五輪だ!

 いやー。凄い。のっけからインパクト満点で大変に素晴らしい。もりやまつるの濃いぃ絵柄と相まって。

 昼は鳶職、夜はキャバ嬢、子連れ元ヤンの伊藤蘭と、かつてマラソンのコーチでありながら訳あってその職を辞し、トラック運転手をしている大鳥嵐(らん)。
 自分をひき逃げした男を追っての蘭の高速道路深夜の大激走を目撃し、そのスピードと、フォームの美しさと、ガッツに心底惚れ込んでしまった嵐。
 身銭を切って蘭の借金を返済し、口説きに口説き倒して彼女をマラソンの世界へと誘います。

 強面のオッサンなのにいちいち言動がお茶目で実にステキ。
 「あけおめ(ハートマーク)」とか、笑顔とか本当にキモ可愛い。
 感動屋だったり、蘭の凄みの前にビビりが入ったりする外見とのギャップがまた愉快であります。 

 そんな嵐ですが、走りにかける情熱は本物だったりして時折芯の通ったかっこよさを見せるのがまた心憎い。

 大阪の街と人々が持つバイタリティとユーモア感、キャバ嬢&マラソンという前代未聞の組み合わせが生み出すインパクト。非常にパワフルな作品。先を読みたくなる力に溢れております。
 見た目と設定から色モノっぽく感じるかもしれませんが、実は中身はまっとうなスポーツ漫画であります。いや、設定と目指すところは凄いですけれど。

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ハラヤヒロ『みこととみこと』1巻

 田舎の学校に転入してきた少女・ミコ。
 宿題で町のことを調べているうちにおんぼろ神社に眠っていた神様「天長眠命(あまのながねむりのみこと)」を目覚めさせてしまう。
 ミコと、眠りすぎてちょっとズレちゃっている神様に、賽銭箱目当てで寄ってきたミコの姉のタカコも加えて始まるほんわかコメディ。「コミックバーズ」連載中。

 引っ越してきたばかりで友達もいなかったミコが、みこと(神様)となんだかんだやっているうちにちょっとづつ溶け込んでいったりとちょっといい話風味も持ちつつ、万能のはずなのに微妙に脱力するみことのボケを軸に周囲がツッコミを入れながら展開していくコメディ。
 お金大好きで騒がしいタカコのキャラクターが良い具合にテンポを攪拌しております。悪戯っぽい笑顔が大変に魅力的。いや、かなり可愛い。おまけにデコっ娘ですし。フハッ!

 一つのネタで大きな笑い、という感じではありませんがラフっぽい筆遣いで描かれたキャラがパタパタ動き回る様は大変に可愛らしいなあ、と。
 前作『ハカセのセカイ』(→感想)の頃よりこなれてさらに可愛らしくなったなあ、という感じが。
 デフォルメの効いた表情がコロコロ変わるのも大変楽しい。
 このテンポと絵柄がマッチしててなんかいいなあ、好きだなあ、という作品であります。

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2007年08月25日

原作:虚淵玄 漫画:中村哲也『エンシェントミスティ』

 オーパーツ・黄金ジェットとその発見者の美少年を巡って繰り広げられるロリっ娘トレジャーハンター&不定形可変メイドVS大英博物館戦術学芸員の戦い! その黄金ジェットに秘められた謎とは?! そして美少年の貞操は無事なのか?!
 『吸血殲鬼ヴェドゴニア』のシナリオライター・虚淵玄と『腐り姫』の原画・中村哲也というコンビで描く冒険活劇!

 というわけで。
 オーパーツ、美少女トレジャーハンター、ライバル組織、オーパーツに眠る神、とお約束なまでの「冒険活劇」要素が詰まった作品。「やっぱりこうでなくちゃ!」感をびしびし感じさせるツボを押さえた話となっております。

 主人公のロリっ娘トレジャーハンター・ミスティ、実はファラオの呪いによって姿を変えられた美少年喰いの妖艶な美女だったり、大英博物館戦術学芸員のタウンゼント卿はマッチョホモのサイボーグだったりと、キャラ設定もトリッキーで楽しい。
 これによってオーパーツだけでなく、美少年の奪い合いというちとマニアックな構図も出現しており、謎とアクションの物語にバカらしさも多分に加わって非常に楽しげな話に仕上がっております。
 それにしても中村哲也描くところのショタっ子は可愛らしいというか色気があって困りますなあ。女性キャラももちろん可愛いですが。中村哲也キャラはちょっと絵柄にクセがあるけれども、とても漫画映えすると思うのです。

 「大陸間弾道メイド」のマレアさんとか、顔見せ程度に登場しているキャラが何人かいたり、目次には「黄金ジェット編」とあったりするので、トレジャーハント物として展開していける構想があったものと思われますが、お話的にはこの1巻で完結。
 冒険活劇として良い意味でのお約束感が詰まっております。その辺の活劇の楽しさと、良く動くキャラクターが楽しい一作でありました。

エンシェントミスティ (電撃コミックス EX 105-1)エンシェントミスティ (電撃コミックス EX 105-1)
虚淵 玄 中村 哲也

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タイム涼介『あしたの弱音』

 昨日取り上げた『アベックパンチ』の前に著者が「コミックビーム」で連載していた作品。
 最初はヘタレたツッパリ中学生の主人公・弱音を、女教師・三子が煽るという形繰り広げられるドタバタギャグ漫画だったのが、いつの間にやら弱音が成長し「人生」の悲哀とほんのちょっとの希望を感じさせる青春漫画へと奇跡の変貌を遂げた作品。
 この単行本では弱音が成長して青春作品へと変貌していく後半のみを収録。
 具体的には弱音がチョンマゲ頭になった第32回から収録。

 中学校の屋上に住み着き、自給自足の生活を送る弱音。
 未来の見えないまま友人達と馬鹿をやらかしたり、性欲に悶々としたり、住処を守るために戦ったり。
 青春のただ中を駆け抜ける弱音が口にするシニカルでどこか滑稽味を帯びた自信について言葉は「アベックパンチ」に通じるリリシズムが横溢しております。

 馬鹿で無茶苦茶な行動をする弱音達。しかし、その生きることに対する真摯さがギャグのばかばかしさと青春物語としての清涼感を素晴らしいバランスでつなげております。

 最初はちんちくりんだった弱音も、物語の終わりにはチョンマゲ頭のままでも、傷だらけでも、りりしい姿に。それもこの作品が辿った軌跡を象徴していていいなあ、と単行本で通して読むとしみじみ思います。

 
あしたの弱音 (BEAM COMIX)あしたの弱音 (BEAM COMIX)
タイム 涼介

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2007年08月24日

タイム涼介『アベックパンチ』1巻

「青くもなく春でもない それがおれらの青春さ」

 冒頭に掲げられたこの言葉の通り、潤いや充実感とは無縁の青春を送るはぐれ者達の青春ストーリー。

 学校にもろくに顔を出さず、ケンカに明け暮れる生活を送るヒラマサ。
 小学校からの腐れ縁で彼とつるんでいるイサキ。
 無類の強さを誇るヒラマサだが、ある日因縁をつけたアベックが繰り出した奇妙なパンチにKOされてしまう。
 屈辱のヒラマサはイサキとともにそのアベック捜しをはじめ、やがて彼らが「アベック」というスポーツのチャンピオンだった事を知り、試合会場に殴り込みをかけに行くが――

 盗んだバイクで走り出す的な青臭い衝動を持つ程にピュアではなく、人生の不条理に悩みを抱く程に小器用でもないイサキとヒラマサの二人。
 悩むそぶりも見せず、ただ本能の赴くまま突っ走るヒラマサに対して、仕方のない馬鹿だと呆れつつも、そのシンプルさにどうしようもない憧れを抱いているイサキ。この二人の織りなす友情が何とも滑稽で、しかしほろ苦くて良いのです。

 荒んだ己の人生を省みて、ある種の諦観と自虐を以て語るイサキのモノローグは、飄々としていて滑稽でしかしどこか哀しい「はぐれ者のリリシズム」とでも言うべき詩情に満ちていて、これがまた素晴らしい。
 このイサキのモノローグが物語の通底音として機能しており、作品の空気を作り出しております。

 そんな未来の見えない無軌道な若者二人の人生に突如現れた珍妙なスポーツ「アベック」。男性と女性が一組となり、互いに片手を繋ぎ合わせたまま戦うというこの競技のチャンピオンに挑戦するため、イサキとヒラマサの新たな目標が生まれますが―――まず、女性に対してデリカシーの欠片も無いヒラマサにパートナーができるのでありましょうか。そのあまりにも困難な挑戦は始まったばかりで挫折気味なのでありました。

『明日の弱音』で開拓された青春のやるせなさと滑稽さが入り交じった詩情が炸裂する本作。
 パワフル且つ繊細な登場人物達の描写、リズム感あふれるセリフ回しも素晴らしく、また「アベック」なる珍妙な設定に対してアクの強い登場人物達がどう絡んでいくのかといった先の展開への興味も十二分。

 個人的には「コミックビーム」で現在連載中の作品の中では最も注目している作品です。
 好き嫌いが分かれる画風かもしれませんが、是非一度読んでみて欲しい一作です。

アベックパンチ 1巻 (BEAM COMIX)アベックパンチ 1巻 (BEAM COMIX)
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2007年08月22日

原作:南條範夫 漫画:山口貴由『シグルイ』9巻

 伊良子の「無明逆流れ」を受けて左腕を切断されて倒れた藤木。
 その藤木に代わって助太刀として仇討場に立つ牛又。
 迎え撃つは検校が雇った手練れ十一人。
 狂剣士と化した牛又の木剣が唸りを上げ、仇討場は地獄と化す!

 そんな感じで牛又師範が凄まじいまでに活躍する第九巻。
 巨大な木剣が振るわれるたびに飛び散る血と肉塊と臓物。人間の範疇を超え「牛鬼」に例えられる戦いぶり。

 その凄絶な戦いぶりを裏付けるように差し挟まれる牛又の過去。
 将来を誓った女に対する密かな恋慕を虎眼先生に看破され、剣の道に生きるために彼女を斬り殺し、けじめとして自ら去勢。

 原作で牛又が三重の婿候補となっていないのは既に妻帯していたからでありますが、「シグルイ」では独身かつ門下で最強といっても良い力量を有しながらも、虎眼先生が彼を跡継ぎの選択肢に入れなかった理由がここで明らかとなっております。

 その荒れ狂う牛又を止めようとした藩士・石田凡太郎。彼の差し出した水を飲み穏やかな表情を見せた牛又ですが、次の瞬間には素手で八つ裂きに。
 それを屈木頑之助が見ての
「蝦蟇は知っていた 餌に出くわした獣は決して唸ることなく 穏やかな眼をすることを」
 という描写も実に振るっております。

「笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である」
 という4巻に登場した説明といい、牛又師範の穏やかな表情は全く恐ろしいったらありません。

 とにかく圧倒的な力量を見せつける牛又師範。
 原作ありの作品である以上、読者は物語の先の展開を知り得るわけで、この勝敗の帰結についても既に分かっている話になります。(原作未読、とか敢えて読まないという選択はあるにしろ)

 虎眼先生の時もそうでしたが、そんな状況に対して「この人が負けるということが信じられない」という異常な強さ・インパクトを発揮させて、その結末に一体どやって持って行くのか?! という物語展開に対する興味を増大させる手腕は流石としか言いようがありません。

 その読者の期待を裏切らない凄まじい展開を虎眼先生の最期。
 この伊良子VS牛又の勝負の結末にここから先、一体どのような展開が待つのか、そしてその最期はどうなるのか、非常に楽しみでなりません。
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2007年08月18日

佐藤信『SWORD GALE』3巻

軍事行動を起こしたベルジェ帝国を迎え撃ったフェレー軍。
 敗れたもののフレイの策により王とともに逃走に成功した一部の軍勢はボレアス伯の居城に落ち延びることに。

 小さいながらも堅牢な城と、フレイの優れた指揮によって何とか持ちこたえるかに思えた戦も、シモンの計によって内側から城門が開かれてしまう。
 外郭を放棄し内郭に拠って圧倒的な大群に対して最後の抗戦を試みるフェレー軍だが、落城は時間の問題というこの状況でフレイ達の決断や如何に――。

 と、ベルジェ軍に包囲されたフレイらの籠城戦を描く第3巻。
 籠城、開門、外郭撤退、城館前最終抗戦――と刻一刻と変化(悪化)する戦況、またそれに伴って移り変わる登場人物達の心境が熱い。

 戦況の悪化とともに厄介ごとを城に持ち込んだフレイらを責め始めるボレアス城の民衆達。
 外郭放棄で時間を稼いでいる間に抜け穴からお偉方ではなく民衆を逃がすことを選択するフレイ。
 自己の保身と利益を優先してきた野党上がりの城主・バリー伯爵が漏らしてきた一言。
 負け戦の緊張感と一種の昂揚、そして負け戦に顕れる美しさが描かれております。
 一見青臭いヒューマニズムの発露に見えるフレイの決断も、きちんと政治的判断が働いている辺りも物語の説得力を増しております。
 決して派手な展開ではないのですが、しっかり描かれた戦況と人間描写が骨太な作品。
 負け戦の中で誕生し、とらわれの身となってしまった英雄がこれからどうなっていくのか、動き出した歴史がどうなっていくのか先々が非常に気になります。

ソードゲイル 3 (3) (KCデラックス)ソードゲイル 3 (3) (KCデラックス)
佐藤 信

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