2007年03月25日

諸星大二郎『私家版魚類図譜』

 「魚」を題材に綴った7つ作品を収めた短編集。

「深海人魚姫」
 チューブワームの森に棲む深海の人魚が、潜水艇に乗った男に恋をし、光の届かぬ深海から、未だ見ぬ上の世界に憧れる。
 嫌われ者の暴君ダイオウイカと、その腰巾着のソコボウズ、外の世界を知るマッコウクジラや、恐ろしい外見だけれど実は優しいコウモリダコなど、人魚姫の物語の枠組みに、奇怪なビジュアルの深海生物を童話的キャラクターとして配したこと、なんとも言えない不思議な味わいを醸し出しております。

「鮫人」
 水上生活者達の集落に流れ着いた中国の将軍が経験する奇妙な体験の物語。
 中国の説話にも造詣の深い諸星大二郎らしい題材で、流した涙が真珠となるという「鮫人」の伝説を元に、ミステリアスかつもの悲しいラブストーリーに。鮫人のビジュアルがいいなあ。

「魚が来た!」
 現在の文明が滅び、その残滓が微かに見られる未来の世界で、機械仕掛けの魚を見つけた少年達が、生きた魚とはどういうものかと調べて回る。
 『私家版鳥類図譜』の「鳥を売る人」と世界観を同じくする話で、微妙に間違って解釈されている我々の時代の生物や文化が楽しい。その上に構築されている、荒廃してごちゃごちゃとしているのだけれど、暗さの無いどこか間の抜けた世界観は大変魅力的です。

「魚の学校」
 甘味屋のマスターの話から、魚が自分の生態を伝授する学校に迷い込んでしまった女子高生。マウスブリーダーのアロワナから口中での子育てを学ぶ母親達や、驚いて胃を吐き出して難を逃れる術をナマコから学んだ同級生、性転換をする友達、おやじギャグをとばしまくるマグロ先生、そして大魚の腹中に……と、カオス度はこの単行本の中では随一。

「魚の夢を見る男」
 妻子にも相手にされず、趣味の熱帯魚に情熱を注ぐ男が、自分が陸に上がった魚になってしまう夢を見る。やがて夢の中の魚に手足が生え、歩き回るようになるが、同時に現実世界で息苦しさを感じるようになり――
 夢と現実が混ざり合った不思議な肌触りの話。ぬるぬると現実との境が無くなっていく辺りの気味悪さなんだか気持ちよさなんだか、そういうのがあります。

「深海に還る」
 「深海人魚姫」の後日譚。
 人魚だった頃の記憶を無くしている女と、彼女が初めて深海で見かけて恋をした男との再会。
 綺麗なラブストーリーとしてまとめたなあ、という印象。

「ネタウナギ」
 著者のネタだしの様子をヌタウナギならぬネタウナギの姿で描いた短編。このユルさがいいなあ。

 という感じで、非常にバラエティーに富んだ作品が集められた一冊。「深海人魚姫」の深海魚達のキャラ立てと物語の組合せ方が実に良かったなあ。

私家版魚類図譜私家版魚類図譜
諸星 大二郎

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posted by 凡鳥 at 01:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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