2006年08月09日

古川日出男 『アラビアの夜の種族』

 聖遷歴1213年。カイロにもたらされたナポレオン率いるフランス軍来襲の報。
 この異世界の若き英雄を退けるため、イスマーイール・ベイの腹心、アイユーブは一策を献上する。
 その策とは武力による抵抗でも、外交による講和でもなく、一つの書物を献上すること。読む者を幻惑し破滅に導き、歴史を覆す唯一絶美の書『災厄の書』を。
 『災厄の書』を完成させるため、カイロの片隅で夜の語り部ズームルッドが物語を紡ぎ出す。それは『もっとも忌まわしい妖術師アーダムと蛇のジンニーアの契約の物語』あるいは『美しい二人の拾い子ファラーとサフィアーンの物語』あるいは『呪われたゾハルの地下宝物殿の物語』と呼ばれる物語。
 夜が朝に代わり、朝が夜に代わる――。


 実に面白かった! 文庫落ちを待たずにもっと早くに読んでいれば良かったと思いましたわ。

 ナポレオンのエジプト遠征の裏側を、一冊の書物の持つ力で覆そうとする話として描くという着想が素晴らしく、その書物に綴られる物語がまたいい。目眩く書物と夢の物語。

 アイユーブらが登場するカイロの緊迫した「現実」を描写するパートと、ズームルッドが語るアーダム、ファラー・サフィアーンら三人の主人公の物語の「語り」を表現した文体が交互に現れて読者を幻惑します。

 しかも、作者自らが後書きで書いているように、この『アラビアの夜の種族』は偶然手に入れた『The Arabian Nightbreeds』なる書物の訳という体裁を取っており(本文中には割り注まで付されている念の入りよう!)、要は壮大な嘘がこの作品の外郭に与えられて、作品自体が「存在しない書物」と作中でされている『災厄の書』の影として存在しているという手の込みよう。

 この存在しない書物の語り(騙り)に存分に幻惑されることをお勧めします。

アラビアの夜の種族〈1〉アラビアの夜の種族〈1〉
古川 日出男

角川書店 2006-07
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posted by 凡鳥 at 09:06| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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